高飛低屈 -書評- 覚悟のすすめ


「覚悟」

この本を手に取ったのは、この言葉が使われていたから、ジャケ買いならぬワード買いである。

覚悟という言葉は、私自身が大事な決断をするときに、常に肝に命じる言葉。そこに惹かれる部分があり、著者の覚悟とはなんなのかが気になった。


次に著者を確認して、500ms思考した後、気がついた。

金本知憲。904試合連続フルイニング出場の世界記録保持者である。
そんな彼に、ついた愛称は「鉄人」

アニキ!

本書、「覚悟のすすめ」は、不惑を超え、今年で43歳になろうという金本知憲の「覚悟」を著した一冊。「高飛低屈」とは私の造語だが、高く飛ぶためには低く屈む時も必要という意味である。それにおいて著者は地に頬が着くほど屈んでいた。

目次:角川書店・角川グループ - 覚悟のすすめより引用
はじめに
覚悟のすすめ
護摩行と数珠
コンクリートを突き破る雑草
第一章 折れない心
知らなかった「大記録」
何があっても休まない
不動のレギュラー
ケガと言わなければケガじゃない
練習で五割でも試合で十割できる
無理だと思ってもやってみればできる
ケガは試合で治す
「よし、今日もやってやる」
デッドボールの後こそ踏み込む
真剣勝負だからいえること
第二章 努力する心
練習するのが当たり前
コンプレックスと屈辱
ビビリだからこそ努力する
よいと思うことは何でも試してみる
油断と慢心が最大の敵
努力が「習慣」になる
満足したら終わり
もっとがむしゃらに
第三章 チームプレー
低かった評価
星野監督の熱意
自分が果たすべき役割
チームバッティングに徹する
犠牲になれない選手たち
前後を打つ若手の力を引き出す
個人記録よりチームの勝利
苦しい時こそ真価が問われる
打撃改造とホームラン
記録が伸びたのは岡田監督のおかげ
傷をなめあうのがチームワークではない
第四章 強靭な肉体
プロでは無理だ
今できることを着実にやる
ガリガリだった入団当時
若い頃から三十代後半を見据えて鍛えた
振る力がついてきた
パワーとスピードの両立
パワーは維持しつつも動きを重視
私のトレーニング法
食事もトレーニング
故障とケガは違う
成果は努力によって築く
選手生命
第五章 感謝の心
信頼に応える
感謝の心を持つ
やらされる練習だってためになる
やらされる練習だってためになる
ファンを喜ばせることが結果や評価につながる
島野さんに捧げるホームラン
第六章 リーダーシップ
準備=覚悟があれば絶対に心はブレない
チームが苦しい時にどうふるまうか
「全試合出場目指せ」
「緊張感も集中力もない」と鳥谷を叱る
監督で豹変する選手たち
「ああ、タイガースなんだな……」
「もう自分のためだけプレーする」
チームに危機感が甦った
選手も裏方もみんなが誇りを
慢心ではない自信がチームにみなぎっている
「戦う姿勢」を阪神の伝統に
二五〇〇本安打もタイムリーで
おわりに

p3.
私は、どちらかといえば強くはない人間である。

「そんな事はないだろう」彼を知っていれば誰もが言いそうなセリフではあるが、プロに入ったばかりの頃は、体も細く、パワーもなく、多少足が速い以外に本当に光ものがなかったと本人は語っている。


期待もされておらず、実績も無かった時代。
試合に出られるようになっても、大事な場面で代打を出される時代。
古巣のカープを抜け、阪神に移籍した時代。

金本がどの時代も一貫していたこと、それこそが「覚悟」を決めることだった。

今は花開かずとも、2、3年後にはかならずレギュラーになるという覚悟。
すべての試合に出場し、不動のレギュラーの座を取るという覚悟。
自分を必要としてくれるチームで全力を出してプレーするという覚悟。

覚悟には痛みがある。
しかし、痛みをともなって得たものは血肉になり、己を形作っていく。

p138.
じつは私だって自分に対しては心のなかでしょっちゅう言い訳をしているし、不平不満をぶつけている。
 ただ、それを口に出すことだけはしないように戒めている。言葉にして、口にしてしまっては「言わずもがな」それまでである。ダメになるに決まっている。気持ちが乱れ、集中も欠く。それがプレーに出る。

「鉄人」は、最初から鉄人の要素を持っていたわけではない。
 彼を鉄人たらしめるのは、今の自分にできうる最良の選択を、覚悟とともに歩んできたからではないか。

p54.よいと思うことは何でも試してみる
自分の経験や知識などしれたものだ。だとすれば、よいとされていることを取り入れない手はない。
 もちろん、人がよかれと思っていることでも、なかには自分には合わないと感じることもある。だが、そう思ったらやめればいいだけの話だ。少なくともやってみてマイナスになることはない。それどころか、やってみなければ可能性を閉じてしまうことになる。

後悔というのは、やったことに対してより、やらなかったことに対してが多いといわれるのもうなずける。

p55.
捨てるという行為は選択肢をひとつ減らすことができたということだから、それはそれで進歩である。できるだけ間口を広くしておいて、まずは試し、少しでもいい影響があれば素直に受け入れ、ダメだと思ったら捨てればいい。

選択肢が減るとともに、新たな選択肢が見つかるという副次的な効果が期待できる。

覚悟のチカラは強い。

しかし、脆い。

本書は、その脆さをカバーする工夫も大事だという事を教えてくれた。

これを読めば、あなたも明日から鉄人、とはいかないが、腹を括って生きることの清々しさを知ることができるのではないだろうか。