Winの5乗 - 書評 - 脱「ひとり勝ち」文明論


パイの奪い合いはもう終わり。

本書は、革命的な文明論であると同時に、誰もがわくわくするような希望論でもあった。そして論じるのみならず、そのわくわくが実現するのは夢物語ではなさそうなのだ。

この文明論、勝間和代語録「Giveの5乗」をインスパイアするなら「Winの5乗」といったところだろうか。

Win1 電気FREE
Win2 CO2ゼロ
Win3 移動コスト節約
Win4 世界中に文明が行き渡る
Win5 誰も負けない


本書「脱「ひとり勝ち」文明論」は、電気自動車Eliica」の開発に携わる著者が、電気自動車の可能性、太陽光発電がもたらす奪い合いなきエネルギー供給のストーリーを淡々と、それでいて、1+1=2を説明するがごとく、易しく解説し、「未来はこんなに明るいんだ」と思わずにはいられない1冊。

第1章 脱「ひとり勝ち」文明へ
第2章 未来は、電気自動車の中にある
第3章 「エリーカ」開発で見えてきたこと
第4章 日本発、日本型の文明を!


 著者は莫大な研究費を投じて電気自動車の開発に取り組んでいる。
 2009年、高知で開催されたエンジン01というイベント。 これに私は出席し、著者が登壇する「電気自動車の未来」を受講した。あいにく当日は都合により著者は欠席となってしまったのが、著者が今まで取り組んできたプロジェクトと、電気自動車に関わる太陽光発電がもたらす未来像がまぶしかったのを覚えている。

 地球の地表面積の1.5%に太陽光発電パネルを敷きつめるだけで、「世界中」の電力がまかなえる。電気自動車に搭載されるバッテリーは改良を重ね、大容量で、耐寒、耐熱、急速充電可能となる。 100%電動なので、エンジンはいらないし、インホイールモーター(モーター内蔵型タイヤ)により、車内空間は大幅に広がる。 ガソリンを使わないので、もちろん二酸化炭素排出量は0。そして静音。 最高時速は370km。

 説明をしていた、講師の方もとても活き活きと話していた姿が印象的だった。

受講後の、質疑応答で出た、インフラの整備についてはこの言葉がすべて。

「インフラから普及した技術はない」

 つまり、インフラが整ったから技術が広がるのではなく、技術が広まった結果、インフラが追いついてくる。のだという。 低価格化についても、十分押さえる事は可能で、要は生産数を上げてしまえば1台あたりの単価がぐっと下がる。

 そして、電気自動車プロジェクトにおいて最大の「脱ひとり勝ち」な点、それは特許のオープンソースだろう。著者のストーリーは壮大で、電気自動車に積載するバッテリーは世界標準の規格にする方向で考えられている。そのためには、各企業はもちろん、各国単位でも規格から外れると「Winの5乗」は実現されない。そのために、バッテリーの規格・インターフェースをオープンソース化し、誰もが自由に使用できるようにする。 そして、その特許には1台あたりいくら、1万台作ったらいくら。というロイヤリティが設けられる。 世界中の設計者の叡智を一点に集約するため、フィードバックも増える。改良される。よりよいモノが生まれる。

 ソーラーパネルでの発電量が著者の理想通りとなれば、供給が需要をゆうに超える転換点がくるはずだ。

 バカでかい話のように聞こえるかもしれないが、2020年までにはこれに近い世界がくるという希望を私は持った。

慶応大学 Eliica(エリーカ)プロジェクト | World Explorer
我慢するエコなんて、意味がない。(中略)「そんな風に我慢を強いるより、この電気自動車に乗れるようにすれば世の中の皆が喜ぶじゃないか。このブレークスルーは、世界を変えるかもしれない」
「我慢のエコ」より「快適なエコ」


世界最速の電気自動車「Eliica」をつくり出した清水浩/Tech総研
高い評価を受けている「Eliica」。しかし、この先には“死の谷”が待ちかまえていると清水氏。「今の車はあくまで試作。ここから先が大変なんです。試作と商品とは違いますからね」。商品とは、信頼性と耐久性、生産性をも兼ね備えていなければならない。まだまだ多くの課題をクリアする必要があるのだ。「もう2回くらいはつくり替えしないといけないでしょうね。地味で、目立たない開発です。でも、これを乗り越えないと商品化はない。試作品と商品には、大きな壁があることを理解しないと失敗すると私は思っています」。目指すは、あくまで商品化、そして大量生産だ。
慶応大学 Eliica(エリーカ)プロジェクト | World Explorer
これ以上二酸化炭素の排出量を増やしては、地球温暖化が止められない。地球上で排出される二酸化炭素の2割はガソリン車から出るものだから、これがみんな電気自動車に置き換わったら、温暖化防止には劇的な前進になる。

エコだけに収まらない近い未来の車「Eliica

Winの5乗で、私も、あなたも、脱「ひとり勝ち」

そんな未来の足音は、すぐそこまで来ているのかもしれない。